2026年8月12日
痔核、いわゆる「いぼ痔」は非常に身近な肛門疾患です。出血、かゆみ、不快感、脱出感などで受診されることが多く、生活の質に大きく影響します。一方で、肛門からの出血や痛みをすべて痔核と決めつけるのは危険です。2026年に米国消化器病学会(AGA)は、痔核の診断と治療に関する臨床実践アップデート1)を公表し、消化器科医が診断から保存的治療、外来処置まで幅広く関与できることを示しました。
まず大切なのは「正しく診断する」こと
痔核の診断は、問診と診察によって比較的容易に行えます。典型的な症状は、排便時の出血、肛門周囲のかゆみ、不快感、腫れや脱出です。ただし、強い痛みがある場合は注意が必要です。痔核が強い痛みを起こすのは、血栓性外痔核などに限られることが多く、排便時に鋭い痛みを感じる場合は裂肛(切れ痔)の可能性が高くなります。
痔核が疑われる新規患者では、可能な限り肛門鏡検査を行い、治療前に診断を確認することが推奨されています。これは、直腸出血の背景に大腸がん、炎症性腸疾患、直腸静脈瘤など別の疾患が隠れていることがあるためです。
第一選択は食物繊維と生活習慣の改善
症状のある痔核に対する最初の治療は、食事と生活習慣の見直しです。具体的には、食物繊維を適度に増やして便をやわらかく保つこと、強くいきまないこと、トイレに長時間座り続けないことが重要です。便秘があると排便時の圧が高まり、痔核の出血や脱出を悪化させることがあります。
野菜、豆類、海藻、きのこ、全粒穀物などを意識して摂取する
水分を十分にとり、便を硬くしない
排便時に強くいきまない
スマートフォンや読書でトイレに長居しない
便意を我慢しすぎない
市販薬や坐浴は「補助的」に考える
外用薬には、局所麻酔薬、収れん薬、ステロイド、血管作動性成分などが含まれるものがあります。症状緩和を目的に使われることはありますが、効果を強く支持するデータは限られています。特にステロイド外用薬は、皮膚が薄くなったり刺激に弱くなったりする可能性があるため、2週間を超えて漫然と使わないことが大切です。
温かいお湯に肛門部を浸す坐浴は、患者さんの不快感を和らげる目的でよく勧められます。ただし、科学的根拠は十分とはいえないため、あくまで症状を軽くする補助的な方法として位置づけるのがよいでしょう。
外来でできる治療:輪ゴム結紮と赤外線凝固
保存的治療で改善しない場合、外来で行える処置が選択肢になります。代表的なのが輪ゴム結紮療法と赤外線凝固療法です。どちらも安全で有効、比較的簡便に行える治療とされ、短期的な効果は似ています。一方で、脱出を伴う痔核や再発性の出血に対しては、輪ゴム結紮療法のほうが長期的な効果を期待できるとされています。
治療法
特徴
主な位置づけ
輪ゴム結紮療法
内痔核の根元を輪ゴムで結紮し、血流を減らして縮小させる
脱出や再発性出血を伴うグレード1〜3の内痔核で検討
赤外線凝固療法
赤外線で痔核周囲の組織を凝固させ、出血や症状を抑える
比較的軽症例や、出血傾向がある場合に選択されることがある
外科的痔核切除
手術で痔核を切除する
グレード4、または外来処置で改善しない重症例で検討
すぐに受診すべきサイン
痔核治療では、まれではありますが骨盤内感染症など重い合併症が起こる可能性があるため、治療前の説明が重要です。処置後に強い痛み、発熱、排尿困難、全身状態の悪化などがある場合は、すぐに医療機関を受診する必要があります。
肛門からの出血が続く、または量が多い
強い痛みや急な腫れがある
発熱や寒気を伴う
排尿しにくい、尿が出にくい
便通異常、体重減少、貧血などを伴う
特別な配慮が必要な患者さん
炎症性腸疾患が活動期にある患者さんでは、痔核の治療は慎重に行う必要があります。クローン病や潰瘍性大腸炎が活動期にある場合は、まず腸管炎症の寛解を目指し、痔核治療は完全寛解後に検討します。
妊娠中は痔核がよくみられ、妊婦の最大3分の2に起こるとされています。治療は原則として、食物繊維の摂取、便秘対策、外用薬などの保存的治療が中心です。出産後も症状が続く場合や、今後の妊娠を予定している場合には、輪ゴム結紮療法や赤外線凝固療法などの標準治療を検討できます。
肝硬変のある患者さんでは、痔核と直腸静脈瘤を区別することが重要です。痔核であれば輪ゴム結紮療法や赤外線凝固療法が選択肢となりますが、血小板減少や凝固異常が強い場合には、出血リスクを考慮して赤外線凝固療法が選択されることがあります。
まとめ
痔核は一般にありふれた病気ですが、正確な診断と段階的な治療が大切です。まずは食物繊維、便秘対策、排便習慣の改善から始め、必要に応じて外用薬や外来処置を組み合わせます。出血や痛みが続く場合、自己判断で長期間市販薬を使い続けるのではなく、肛門鏡検査などを含めた診察を受けることが重要です。
患者さんへのメッセージ:「痔だと思うから大丈夫」と決めつけず、出血、強い痛み、脱出、症状の再発がある場合は早めに相談しましょう。多くの場合、生活習慣の見直しや外来での低侵襲治療により、症状の改善が期待できます。院長は長年消化器外科医として肛門治療にも精通しておりますので、些細なことでも大丈夫ですので、お気軽にお問い合わせください。
参考文献
1)「AGA Clinical Practice Update on Diagnosis and Treatment of Hemorrhoids: Expert Review.」 Qureshi W, et al. Clinical Gastroenterology and Hepatology. 2026; 24(7): 1773-1781. doi: 10.1016/j.cgh. 2026.04.008.
この記事を監修した医師

たむら内科・消化器内視鏡クリニック院長
田村 耕一
和歌山県立医科大学医学部卒業。同大学附属病院をはじめ、関連基幹病院にて勤務し、消化器外科手術や消化器内視鏡検査、抗がん剤治療などに精通している。また、筆頭著者として多数の英語論文の執筆歴があり、消化器がんの早期診断と治療を含めた啓発活動にも重要性を見出だしている。2024年11月より大阪府池田市でたむら内科・消化器内視鏡クリニック院長として北摂を中心とした地域医療と内視鏡検査の普及にも注力している。
