2026年9月30日
遺伝的な体質と菌のタイプで変わる可能性 ―2つの長期試験から―

この記事のポイント:ヘリコバクター・ピロリ菌は胃がんの原因として知られていますが、大腸がんの発症リスクとも関連する可能性が以下の研究1)で示されました。ただし、除菌がすべての人において大腸がんを予防すると結論づけるには、まだ追加研究が必要です。
どんな研究?
研究チームは、中国・山東省で実施された2つの無作為化比較試験の参加者を長期追跡し、ピロリ菌感染や除菌治療と、大腸がん発症との関係を後方視的に解析しました。対象は、1995年開始の介入試験(SIT、3,365人)と、2011年開始の大規模介入試験(MITS、18万284人)です。追跡期間はそれぞれ29.4年、13.8年でした。

主な結果
- 感染者では大腸がんリスクが高かった:抗菌薬治療を受けていないピロリ菌陽性者は、陰性者に比べ、SITで約3倍、MITSで約1.27倍の発症リスクを認めました。
- 長期追跡のSITでは除菌治療後のリスクが低下:治療群の大腸がんリスクは53%低く、除菌に成功した人では62%低い結果でした。
- MITS全体では明確な低下はなかった:13.8年時点では治療群全体の有意な予防効果は確認されませんでした。
- 効果が大きい可能性のある人がいた:大腸がんの多遺伝子リスクスコアが上位10%の人や、CagA、HpaA、Omp、HP0305という菌由来抗原に陽性の人では、感染によるリスク上昇や治療後のリスク低下がより目立ちました。


なぜピロリ菌が大腸に影響するのか
ピロリ菌が大腸に長く住みつくと証明されたわけではありません。考えられているのは、胃の炎症を起点とした全身・腸管の免疫機能の変化、腸管バリア機能の低下、腸内細菌叢の乱れ、高ガストリン血症や代謝変化などを介した間接的な影響です。こうした変化が重なると、発がんを促しやすい環境が生じる可能性があると示唆されています。
この結果の解釈における注意点
- もとの試験は胃がん予防を主目的としており、大腸がん解析は事後解析です。
- 2試験では年齢、治療法、対照群、開始年代、追跡期間が異なります。
- MITSの遺伝子・菌抗原別解析は症例数が限られた探索的なサブグループ解析です。
- 追跡終了後のピロリ菌再感染や試験外での抗菌薬使用の有無などは十分に把握できていません。
- 研究地域は中国における胃がん高リスク地域であり、日本を含む他地域にそのまま研究結果が当てはまるとは限りません。
皆さんへのメッセージ
この研究は、ピロリ菌対策が胃がん予防だけでなく、大腸がんリスクにも関係する可能性を示しました。一方で、現時点では「大腸がん予防だけを目的に、すべての人がピロリ菌検査や除菌治療を受けるべき」とまでは言えません。検査や治療の適否は、症状、既往歴、胃がんリスク、薬剤アレルギー、耐性菌の状況などを踏まえ、医師に相談してください。大腸がん予防では、年齢や家族歴に応じた検診、便潜血検査、必要時の大腸内視鏡検査、禁煙、適正体重、運動、食生活の改善が引き続き重要です。

- Han X, Xu H-M, Liu Z-C, et al. Helicobacter pylori infection, treatment and colorectal cancer risk by genetic predisposition: evidence from two randomized trials. Gut. 2026. doi:10.1136/gutjnl-2026-338156.
注:本稿は原著論文の内容を一般向けに再構成した医療コラムです。個別の診断・治療の代わりになるものではありません。
この記事を監修した医師

たむら内科・消化器内視鏡クリニック院長
田村 耕一
和歌山県立医科大学医学部卒業。同大学附属病院をはじめ、関連基幹病院にて勤務し、消化器外科手術や消化器内視鏡検査、抗がん剤治療などに精通している。また、筆頭著者として多数の英語論文の執筆歴があり、消化器がんの早期診断と治療を含めた啓発活動にも重要性を見出だしている。2024年11月より大阪府池田市でたむら内科・消化器内視鏡クリニック院長として北摂を中心とした地域医療と内視鏡検査の普及にも注力している。
