2026年8月22日
CHALLENGE試験の費用対効果分析を解説します
この記事のポイント:大腸がんの手術と抗がん剤治療を終えた人が、専門家の支援を受けて3年間運動を続けたところ、健康資料を読むだけの人より再発や新しいがんが少なく、わずかながら長く、より良い状態で生活できました。運動支援には費用が必要でしたが、その後の治療費が減り、5年間の総医療費も低くなりました。

大腸がんの治療が終わると、「再発を防ぐために、自分にできることはあるのだろうか」と考える人は少なくありません。定期検査や食生活に加え、近年注目されているのが運動です。今回紹介するCHALLENGE試験の経済分析は、専門家が支援する運動に健康上の効果があるだけでなく、医療費を抑える可能性もあることを示しました。
どんな研究?
対象は、手術と再発予防の抗がん剤治療を終えたステージIIIまたは再発リスクの高いステージIIの大腸がん患者889人です。参加者は、3年間の「運動プログラム」を受けるグループと健康に関する資料だけを受け取るグループに分けられました。
運動プログラムでは、理学療法士や運動の専門家が一人ひとりの体力や生活に合わせて支援しました。面談は1年目が2週ごと、2~3年目が月1回でした。中心となったのは、速歩きや自転車などの有酸素運動です。大切なのは、決まった運動を一律に課すのではなく、無理のない範囲から始め、続けられる量へ少しずつ増やしたことです。
運動プログラムは、参加者に「毎日これだけ運動してください」と一方的に指示するものではなく、理学療法士や運動生理学の専門家などが体力や生活状況に合わせて3年間寄り添って実施されました。目標は余暇の運動量を週10~最大27 MET時間増やすことです。METは運動の強さを表す単位です。
主な結果
運動プログラムには1人当たり2,917カナダドルかかりました。それでも、再発や新規の医療費が3,040カナダドル、抗がん剤治療費が1,921カナダドル少なくなり、総医療費は平均1,589カナダドル低下しました。つまり、最初に運動へ投資しても、その後に必要となる治療が減ったことで、全体では節約になったのです。
数字の意味は?
5年間で、運動グループは平均生存期間が0.05年、生活の質を加味した生存期間が0.10年延長しました。数字は小さく見えますが、これは参加者全体の平均です。全員が同じだけ長生きするという意味ではありません。再発や新しいがんを避けられた人の利益が、全体の差として表れています。多くの患者にこの結果が広がれば、社会全体では無視できない効果になります。
このように「費用が少なく、健康面の効果が高い」状態を、医療経済では「dominant」と呼びます。また、運動プログラムが費用に見合うと判断される確率は、一般的な基準で80%でした。結果には不確実性があるものの、運動への支出は十分に価値があると考えられます。
なぜ運動が大切なのか
この研究で重要なのは、運動を本人の努力だけに任せなかったことです。抗がん剤を含めた治療後は、疲れ、手足のしびれ、筋力低下などが残り、運動を始めにくいことがあります。専門家がいれば、その日の体調に合わせて内容を調整し、無理のない目標を立てられます。「何を、どのくらい、どう続けるか」を一緒に考える仕組みも、運動の効果の一部といえるでしょう。
運動が再発を減らす詳しい仕組みは、まだ完全には分かっていません。体重や血糖の改善、炎症の低下、免疫機能への影響などが関係すると考えられています。ただし今回の結果は、運動が気分転換や体力回復だけでなく、治療後の経過にも関わる可能性を示しています。
身近な生活に置き換えると
この研究は、全員が同じ強さで運動すべきだという意味ではありません。まずは座っている時間を減らし、短い散歩や買い物での歩行など生活の中で体を動かす時間を少しずつ増やすことが現実的です。体力が戻ってきたら、自転車や水泳・水中歩行などを検討してもよいでしょう。大切なのは、疲れを我慢して頑張ることではなく、自分の状態に合った方法を続けることです。
注意して検討する点
注意点もあります。費用はカナダの医療制度を基にしているため、日本で同じ金額を節約できるとは限りません。また、試験では専門家が3年間支援しており、自己流の運動で同じ効果が得られるかは分かりません。生活の質を評価できた期間も5年までです。それでも、人件費や医療費の条件を変えた分析でも、結果はおおむね変わりませんでした。
皆さんへのメッセージ
運動は「自分に合った量」が大切です。治療後の体力や副作用には大きな個人差があります。運動を始める前や運動量を増やす前には主治医に相談し、必要に応じて理学療法士やがんリハビリテーションの専門家にアドバイスをもらいましょう。胸の痛み、強い息切れ、めまい、発熱、急な痛みがある場合は運動を中止し、医療機関に相談してください。
当院では、近隣の市立病院などとがん連携パスで術後患者さんのフォローも行っております。院長は、長年消化器外科医として多数のがん患者さんを診ていますので、ご安心ください。
些細なことでも大丈夫ですので、お気軽にお問い合わせください。
出典
Chu RWK, Chan KKW, et al. Structured Exercise Program After Adjuvant Chemotherapy for Colon Cancer: A Cost-Utility Analysis of the CHALLENGE Trial. Journal of Clinical Oncology. 2026; 44:2130-2139. DOI: 10.1200/JCO-26-00765.
この記事を監修した医師

たむら内科・消化器内視鏡クリニック院長
田村 耕一
和歌山県立医科大学医学部卒業。同大学附属病院をはじめ、関連基幹病院にて勤務し、消化器外科手術や消化器内視鏡検査、抗がん剤治療などに精通している。また、筆頭著者として多数の英語論文の執筆歴があり、消化器がんの早期診断と治療を含めた啓発活動にも重要性を見出だしている。2024年11月より大阪府池田市でたむら内科・消化器内視鏡クリニック院長として北摂を中心とした地域医療と内視鏡検査の普及にも注力している。
