2026年10月14日
日本人の大腸がんゲノムと腸内細菌を調べた最新研究1)から、分かったこと・まだ分からないことを整理します。

研究のポイント
- 一部の大腸菌は「コリバクチン」という物質を作り、大腸の細胞のDNAを傷つけることがあります。
- 日本人の大腸がん患者200例を詳しく解析した研究で、変異が極端に多い特殊なタイプを除く症例の44.8%に、コリバクチンに関連する特徴的な変異の痕跡が見つかりました。
- 40歳未満で発症した症例では、その割合が約70%でした。ただし、これは「若い人の70%が大腸がんになる」という意味ではありません。
- 成果は将来の予防や検査につながる可能性がありますが、現時点で一般診療に使える菌検査や除菌法が確立したわけではありません。
コリバクチンとは?
大腸菌は私たちの腸に普通にいる細菌ですが、すべてが同じ性質ではありません。その一部は、コリバクチンを作るための遺伝子群を持っています。コリバクチンが大腸の細胞に作用するとDNAが傷つき、修復の過程で特徴的な変異パターンが残ることがあります。研究者はこのパターンを、過去の影響を示す「指紋」のように読み取ります。
研究では何を調べた?
研究チームは、大腸がん患者200例について、がん細胞の全ゲノム解析を行いました。さらに、別コホートを含む便のメタゲノム解析やAI解析を組み合わせ、腫瘍の変異と腸内細菌の構成を詳しく比較しました。この研究の特徴は、がん組織の全ゲノム解析だけでなく、遺伝子の働きを見るトランスクリプトーム解析と、便中の細菌遺伝子を広く読む全ゲノム・メタゲノム解析を統合した点です。さらに、どの細菌の組み合わせが分類に寄与したかを追いやすい「解釈可能なAI」を用いて、宿主側のがんゲノムと腸内細菌叢を同時に捉えました。
「変異シグネチャー」は何を意味する?
コリバクチンに関連する代表的な指標は、1文字の置き換わり方を示す「SBS88」と、短いDNA断片の挿入・欠失を示す「ID18」です。研究では、これらが変異数の極端に多い腫瘍を除いた症例の44.8%で検出されました。異なる種類の傷跡がそろって見つかることで、単なる偶然ではなく、共通するDNA損傷過程の存在がより強く示唆されます。

結果として分かったこと
- コリバクチンの痕跡は早い段階で生じていた可能性
関連する変異は、がん細胞の大部分に共有される「初期の変化」として検出されました。 - がんに重要な遺伝子にも痕跡
APC、BRAF、TP53など、大腸がんの発生や進展に関わる遺伝子にも、コリバクチンと整合する変異が確認されました。 - 若い世代との関連
1960年代以降に生まれた患者で関連変異が多い傾向が示され、40歳未満の発症例では約70%に痕跡がありました。 - 腸内細菌の構成から4タイプに分類
便の細菌構成とAI解析により、大腸がんは4つの微生物学的サブタイプに分けられ、それぞれで臨床的・分子的特徴が異なりました。
現在、菌を調べたり、除菌したりできる?
現時点では、この研究結果をもとに一般の医療機関でコリバクチン産生菌を調べ、予防目的で除菌する標準的な方法は確立していません。現在の便検査で菌の有無だけを見ても、過去にDNAへ影響したかどうかを直接判断できるとは限りません。研究は、将来のリスク評価や予防法を考えるための重要な出発点です。
現在の便中の菌と、過去のDNAの傷跡は同じではない
重要なのは、手術前に採取した便からコリバクチン産生能を持つ菌が多く見つかることと、腫瘍ゲノムにコリバクチンの変異シグネチャーが残っていることが、必ずしも一致しない点です。菌の構成は時間とともに変わりますが、DNAに固定された変異は過去の曝露を記録します。そのため、現在の便検査だけで長年の発がんリスクを推定するには、さらなる研究が必要です。
私たちが今できること

- 自治体や職場から案内される大腸がん検診を適切に受ける
- 便潜血検査で陽性になったら、自己判断で放置せず精密検査を受ける
- 血便、便が細くなる、便秘と下痢を繰り返す、原因不明の貧血などがあれば、年齢にかかわらず医療機関へ相談する
- 喫煙、飲酒、体重、運動、食事など、既に分かっている大腸がんリスクにも目を向ける
まとめ
今回の研究は、日本人の大腸がんの一部で、腸内細菌が作るコリバクチンによるDNA損傷が発がんの早い段階に関与した可能性を示しました。注目すべき成果ですが、個人の発症原因を断定したり、すぐに新しい検査・除菌へ結びつけたりできる段階ではありません。研究の進展を見守りつつ、現時点では標準的な検診と、気になる症状があるときの早めの受診が大切です。
皆さんへのメッセージ
当院では、大腸がん検診としての便潜血検査をはじめ、大腸内視鏡検査を受け付けています。大腸内視鏡検査は土曜日も含め、診察日すべてで受けることが可能です。鎮静剤を使った安心安全で緊張の無い検査を実施しており、日帰りで大腸ポリープ切除も可能です。池田市をはじめとして、箕面市、豊中市、豊能郡、川西市と各所からご来院いただいています。院長は、長年大腸がんの周術期治療に携わってきましたから、様々な対応に精通しています。また、日本消化器内視鏡学会認定の消化器内視鏡専門医かつ指導医ですので、ご安心して大腸内視鏡検査をお受けください。
些細なことでも大丈夫ですので、お気軽にお問い合わせください。
- Nature Genetics 2026. https://doi.org/10.1038/s41588-026-02692-x.
この記事を監修した医師

たむら内科・消化器内視鏡クリニック院長
田村 耕一
和歌山県立医科大学医学部卒業。同大学附属病院をはじめ、関連基幹病院にて勤務し、消化器外科手術や消化器内視鏡検査、抗がん剤治療などに精通している。また、筆頭著者として多数の英語論文の執筆歴があり、消化器がんの早期診断と治療を含めた啓発活動にも重要性を見出だしている。2024年11月より大阪府池田市でたむら内科・消化器内視鏡クリニック院長として北摂を中心とした地域医療と内視鏡検査の普及にも注力している。
