肝臓がん
肝臓がん

肝臓は、お腹の右上にある人体最大の臓器で、血液から栄養分を取り込み、貯蔵することや有害物質を取り除いて便として体外に排泄すること、脂肪の消化を助ける胆汁の分泌・エネルギーの消費に必要なグリコーゲン(糖質)の貯蔵を担います。
肝臓がんは主に肝実質の肝細胞に何らかの原因やリスク要因でがん細胞が無秩序に増殖した病態を呈する「肝細胞がん」と肝臓内に張り巡らされた胆管ががん化した「肝内胆管がん(胆管細胞がん)」に分けられます。肝臓以外の臓器にできたがんが、肝臓に転移したものを「転移性肝がん」といい、肝転移といわれることもあります。このページでは「肝細胞がん」について説明します。
日本における肝臓がんの診断者数は約37,000人、死亡者数は年間約30,000人にのぼります。男性では45歳から、女性では55歳から増加し始め、罹患率・死亡率とも男性が女性の約3倍高率です。
| 病期 | 対象数 | 集計対象施設数 | 生存状況把握割合 | 平均年齢 | 実測生存率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 全体 | 13,040 | 426 | 98.5% | 71.9歳 | 38.1% |
| Ⅰ期 | 6,823 | 409 | 98.3% | 72.2歳 | 56.3% |
| Ⅱ期 | 4,124 | 404 | 98.6% | 71.7歳 | 40.7% |
| Ⅲ期 | 1,301 | 393 | 98.4% | 72.0歳 | 15.5% |
| Ⅳ期 | 661 | 409 | 98.9% | 70.7歳 | 5.1% |
※生存状況把握割合:生存率を推定するために患者さんの生死状況を確認する割合です。一般に、この割合が低いと生存率は本当の値よりも高く計算されます。
出典:国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録生存率集計」
肝臓がんは、B型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染が主な原因とされます。肝炎ウイルスが長期間にわたり肝細胞内で炎症と再生を繰り返すうちに、遺伝子の突然変異が起こり1)、慢性肝炎から肝硬変(肝臓が硬くなってしまう状態)と経て、肝臓がんになります。また、ウイルス感染がないにも関わらず、自らの肝細胞を攻撃してしまう自己免疫性肝炎が原因となることもあります。その他には、多量飲酒によるアルコール性肝障害、メタボリックシンドロームによる非アルコール性脂肪肝炎(NASH)などがあります。このように非アルコール性脂肪肝から脂肪肝炎・肝硬変に進行する一連の肝臓病のことを非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)といい、近年では、肥満・糖尿病・高血圧症・脂質異常症などの代謝性疾患との関連がより重要視されるようになり、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)として肝臓がんの割合の増加も注目されています。
さらに、男性、高齢、喫煙、アフラトキシン(カビ毒素)への曝露も肝がんのリスク因子として知られています2)。
肝臓がんは、初期の段階ではほとんど自覚症状がなく、肝臓が沈黙の臓器といわれる由縁です。進行すると腫瘍の増大による腹痛や胃の圧迫、腹部腫瘤の触知、黄疸(身体や目が黄色くなる)・食欲不振・腹水などの肝硬変症状がみられます。貧血症状や体重減少にも注意が必要ですが、肝臓がん特有の症状とはいえません。
上記の症状は、消化器疾患では日常一般的にみられるものですが、肝臓がんは依然罹患数の多い疾患ですから、日頃気になる症状がある際は是非お気軽にご相談ください。
胃がんや大腸がんのように特有のがん検診はありませんので、ウイルス性肝炎や家族歴・併存疾患の聴取、血液検査、超音波検査などをもとに更なる精密検査が必要かを決定します。HBVまたはHCV感染者は肝臓がんのハイリスク群ですから、定期的な診察・検査は非常に大切です。
肝臓がんまたは肝疾患が疑われた場合、必要に応じて以下の検査を追加します。
血液中の肝酵素値としてAST(GOT)やALT(GPT)を測定、腫瘍マーカーとしてAFPやPIVKA-II、AFP-L3分画が高値を示しているかを確認します。これらの測定結果から診断の手掛かりや病期・治療効果を判定することも可能です3)。
がんの状態や病期を判断するために、主に造影剤投与下での腹部CT検査やMRI(MRCP)検査、PET検査などで詳細な検討が必要になります。腹部超音波検査は簡便かつ非侵襲的な検査ですが、造影剤を併用することで確定診断に繋がる手段の一つに挙げられます。
肝臓がんは、肝機能評価が大切で、病期診断とともに肝障害度を客観的に評価する必要があり、肝癌診療ガイドラインではChild-Pugh分類が用いられています。肝臓がんの進行具合は、ステージ(病期)として表され、ステージ1~4(I~IV期)に分かれます。基本的には、肝内病変の状況(T因子)、リンパ節転移の状況(N因子)、遠隔転移の状況(M因子)から構成されています。まずT因子として下記の3項目を評価します。
①~③すべてに合致する場合にはT1、2項目に合致する場合にはT2、1項目に合致する場合にはT3、すべてに合致しない場合にはT4となります。また、リンパ節・遠隔臓器に転移がない場合をA、リンパ節転移はあるが遠隔転移はない場合をB、遠隔転移がある場合をCとします。原発性肝癌のステージは、T1のAがⅠ期、T2のAがII期、T3のAがIII期、T4のAとT1~T4のBがIVA期、T1~T4のCがIVB期となります(原発性肝癌取扱い規約第6版補訂)。
肝臓がんの治療は、肝癌診療ガイドライン4)に沿って検討されます。肝障害度と腫瘍のサイズや個数に応じて、肝切除・ラジオ波などの局所治療、肝動脈塞栓術、全身化学療法、肝移植、緩和ケアを選択することがアルゴリズムとして示されています。個々の患者さんの腫瘍の場所や悪性度を踏まえ、治療方針を決定します。
詳しくお聞きになりたい方は、消化器外科専門医・指導医で、長年にわたり消化器がん治療に従事している院長までお気軽にお問い合わせください。
1) Yamashita T et al. J Clin Invest 2013. 123: 1911-1918.
2) Chen L et al. Nature 2024. 627: 586-593.
3) Marrero JA et al. Gastroenterology 2009. 137: 110-118.
4) 一般社団法人日本肝臓学会編.「肝癌診療ガイドライン(2021年版)」金原出版,東京.
TOP