膵臓がん
膵臓がん
膵臓は、胃の後ろ、背中側にある長さ20cmほどの細長い臓器で、食べ物の消化を助ける膵液と血糖の調節を行うインスリンも分泌します。膵臓がんは主に膵管に何らかの原因やリスク要因でがん細胞が無秩序に増殖した病態です。日本人の膵臓がんの大半は腺がんという組織型をとりますが、他にいくつかの種類も存在します。
日本における膵がんの罹患者数は約45,000人、死亡者数は年間約39,000人にのぼります。膵がんは早期発見できれば生存率の向上が期待されますが、自覚症状が現れにくく進行がはやいため、早期発見することが難しいがんの一つです。
臨床病期 | 割合(%) | 5年生存率(%) | 5年相対生存率(%) | |
---|---|---|---|---|
膵臓がん | I | 6 | 43.9 | 47.5 |
II | 25 | 17.8 | 19.2 | |
III | 17 | 6.8 | 7.3 | |
IV | 49 | 1.7 | 1.8 | |
不明 | 2 | 48.3 | 51.9 | |
合計 | 100 | 平均 10.3 |
平均 11.1 |
膵臓がんは、家族歴や慢性膵炎(アルコールの多飲に起因、糖尿病に起因など)、肥満、喫煙歴、男性であることなどが危険因子に挙げられます。一度近親者(親・兄弟姉妹・子)に2人以上の膵がん罹患者がいる家系は「家族性膵癌家系」と定義され、BRCA1/2、PALB2、CDKN 2A、STK11などの遺伝子変異の関連が示唆されます1)。2型糖尿病や肥満と発がんリスクの関連は多く報告されており2) 3)、他のリスクファクターと含め注意が必要です。
危険因子 (リスクファクター) |
発症リスク | |
---|---|---|
すい臓がんの家族歴 | 家族性膵がん家系 | 9倍 |
散発性膵がん家系 | 1.7~2.4倍 | |
遺伝性膵がん症候群 | 遺伝性膵炎(PRSS1) | 60~87倍 |
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(BRCA1/2) | 4.1~5.8倍 | |
ポイツ・ジェガース症候群(STK11) | 132倍 | |
家族性異型多発母斑黒色腫症候群 (CDKN2A) |
13~22倍 | |
遺伝性非ポリポーシス大腸がん (hMSH2、hMLHI) |
~8.6倍 | |
家族性大腸腺腫ポリポーシス(APC) | 4.4倍 | |
併存疾患 | 糖尿病 | 1.96倍 |
慢性膵炎 | 4.8倍~14.6倍 | |
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN) | 年率1.1~2.5倍(分枝型) | |
肥満 | 3.5倍(20代でBMI30以上) | |
生活習慣 | 喫煙 | 1.68倍(喫煙本数と相関) |
大量飲酒 | 1.22倍 | |
職業 | 塩素化炭化水素曝露 | 2.21倍 |
『膵がん診療ガイドライン』(金原出版)より引用・作成
膵臓がんは、初期の段階ではほとんど自覚症状がなく、早期発見を困難する要因の一つです。進行すると腹痛や食欲不振、腹部膨満感、黄疸(身体や目が黄色くなる)、背中の痛みなどが起こります。糖尿病患者さんは急な血糖の悪化が、膵臓がん発見のきっかけになることもあります。貧血症状や体重減少にも注意が必要です。
腹痛や腹部膨満といった症状は、消化器疾患で一般的にみられ、放置されがちですが、膵臓がんは近年増加の一途を辿るがんの一つですから、日頃気になる症状がある際は是非お気軽にご相談ください。
胃がんや大腸がんのように特有のがん検診はありませんので、問診や家族歴・併存疾患の聴取、血液検査、超音波検査などをもとに更なる精密検査が必要かを決定します。
膵臓がんが疑われた場合、必要に応じて以下の検査を追加します。
血液中の膵酵素値として、アミラーゼやリパーゼ、エラスターゼ1を測定、腫瘍マーカーとして、CEAやCA19-9、DUPAN-2、Span-1などが高値を示しているかを確認します。これらの測定結果から診断の手掛かりや病期・治療効果を判定することも可能です4)。
がんの状態や病期を判断するために、主に造影剤投与下での全身CT検査やMRI(MRCP)検査、超音波内視鏡検査(EUS)、内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP)、PET検査などで詳細な検討が必要になります。EUSやERCPを行った際は、細胞診や組織診による確定診断をつけられる場合があります。
膵臓がんは、膵臓に限局する20mm以下の腫瘍のみが長期生存の期待できる膵がんといえることになります。膵臓がんの進行具合は、ステージ(病期)として表され、ステージ0~4(0~IV期)に分かれます。(以下、膵癌取扱い規約第8版から引用・作成)
膵臓がんのステージ(病期)分類:
病期 | T因子 | N因子 | M因子 | 切除可能性 分類 |
|||
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(がんの拡がり) | (リンパ節転移) | (他臓器転移) | |||||
0 | Tis | 上皮内癌 | N0 | 転移なし | M0 | 転移なし | |
IA | T1 | 2cm以下で膵内に限局 | N0 | 転移なし | M0 | 転移なし | 切除可能(R) または 切除可能境界(BR-PV) |
IB | T2 | 2cmを超え膵内に限局 | N0 | 転移なし | M0 | 転移なし | |
IIA | T3 | 膵外に進展 | N0 | 転移なし | M0 | 転移なし | |
IIB | T1-T3 | N1 | 転移あり | M0 | 転移なし | ||
III | T4 | 腹腔動脈または 上腸間膜動脈に浸潤 |
N0-N1 | M0 | 転移なし | 切除可能境界(BR-A) または局所進行切除不能 (UR-LA) |
|
IV | T1-T4 | N0-N1 | M1 | 転移あり | 遠隔転移 (UR-M) |
膵臓がんの治療は、がんの進行(病期)に基づいた標準治療を基本として、本人の希望や生活環境、年齢、併存疾患を含めた身体の状態などを総合的に検討し、決定します。
以下にステージ(病期)ごとの一般的な治療方針を示します。
0期の場合は、手術適応となりますが、術後も注意深い定期経過観察が必要です。
Ⅰ期、II期で「切除可能(R)」と診断された場合は、術前化学療法を行った後、手術を行い体内に残る微小ながん細胞に対して術後補助化学療法を受けるのが標準治療です。
II期、III期で「切除可能境界(BR)」と診断された場合は、術前化学療法か化学放射線療法を実施した後、再評価を行い、切除可能となれば手術と術後補助化学療法を行います。再評価を行った際、がんの大きさが変わらないか大きくなった場合は、化学療法を続けます。最初に化学療法のみを実施した場合には、放射線療法を併用することもあります。
III期で切除ができないと診断された方など病変が膵臓周辺にとどまっている局所進行がんの場合は、化学放射線療法または化学療法を行います。これまでの臨床試験の結果では、効果は同程度と考えられています5)。
IV期では化学療法を実施します。最近は薬物療法の効果や選択肢に関して肯定的な報告が増えたため6)、III期やIV期であっても、化学療法または化学放射線療法を実施した後、手術が可能になる場合もあります。
詳しくお聞きになりたい方は、消化器外科専門医・指導医で、長年にわたり消化器がん治療に従事している院長までお気軽にお問い合わせください。
1) Golan T et al. J Clin Oncol 2020. 38: 1442-1454.
2) Aune D et al. Ann Oncol 2012. 23: 843-852.
3) Lin Y et al. Int J Cancer 2007. 120: 2665-2671.
4) Nazli O et al. Hepatogastroenterology 2000. 47: 1750-1752.
5) Takahashi H et al. Ann Surg 2012. 255: 95-102.
6) Conroy et al. N Engl J Med 2011. 64: 1817-1825.
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