食道がんは、食べ物の通り道である食道粘膜から何らかの原因でがん細胞が無秩序に増殖した病態で、日本人では食道の中央付近にできやすいとされています。診断技術は進歩していますが、早期発見されることがいまだ少なく、食道の詳細な観察が可能な胃カメラによる検査が大切です。
食道がん
食道がん
食道がんは、食べ物の通り道である食道粘膜から何らかの原因でがん細胞が無秩序に増殖した病態で、日本人では食道の中央付近にできやすいとされています。診断技術は進歩していますが、早期発見されることがいまだ少なく、食道の詳細な観察が可能な胃カメラによる検査が大切です。
生活習慣の偏り
飲酒と喫煙に強い関連があるといわれていて、中高年の男性に多い傾向がみられます。そのほかに運動不足や熱いもの・辛いものをよく食べる、野菜・果物をあまり食べないといった偏った食習慣も発生に影響しています。
遺伝要因
日本人では、扁平上皮癌の割合が極めて高く、最近の研究では、エタノール分解代謝の酵素であるALDH2や遺伝性乳がん・卵巣がん・膵がんの原因遺伝子として知られるBRCAの遺伝子多型と発がんの関連が示されました。日本人の飲酒に伴う遺伝子変異機構が強く働くことでTP53というがんドライバー遺伝子の異常を誘発・食道がんが発症という仕組みが明らかになっています1)。
食道がんは、初期の段階では自覚症状がほとんどなく、進行するにつれて、食べ物を飲み込んだときの胸部の違和感やつかえる感じ、熱いものがしみるといった症状が現れます。さらに病状が進行した際には、食べ物が通らないといった症状に加えて胸や背中の痛み、咳込む、声がかすれる(嗄声)、貧血、体重が減少するなどの全身症状も伴います。貧血はがんからの出血によるもので、血便(黒色の便~タール便)が出ることがあります。これらの症状は、胃炎や胃・十二指腸潰瘍、胃がんでもみられることから日頃気になる症状がある際は是非お気軽にご相談ください。著しい全身倦怠感や体重減少、身の置き所のない症状がみられた場合は、進行して全身にがんが拡がっている可能性がありますので、速やかに受診を検討してください。
X線透視検査では、健康診断やがん検診の際に食道壁の不整という診断でみつかることがあります。あくまでも、食道壁の変形や形態不良が分かるだけですので、確定診断には至らないため上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)が必要です。胃カメラでは、食道から胃、十二指腸まで観察可能ですので、食道病変の生検(組織を採取)を行い、病理検査で食道がんかどうかの確定診断が行われます。早期がんであれば、がんが食道壁の浅い層に限定されている場合には内視鏡治療が可能です。しかしながら、がんの大きさや深さ、拡がりを正確に診断する必要がある際は、胸腹部CT検査、腹部超音波検査、超音波内視鏡検査などの特殊な検査を追加する必要があるため、速やかに連携機関との調整を行います。
日本人における食道がんの90%以上は、食道扁平上皮から発生する「扁平上皮がん」です。食道の下部(胃に近い)には、胃酸による影響で「腺がん」が発生します。また、食道がんは呼吸器や咽頭・喉頭などの飲酒と喫煙の影響を受けやすい臓器にもがんが発生することがり、重複がんといわれます。主な重複がんには、胃がん、咽頭がん、喉頭がん、大腸がん、肺がんなどが挙げられます。
食道がんの進行具合は、ステージ(病期)として表され、ステージ0~4(0~IV期)に分かれます。
食道がんで早期がんといえるのは、0期の状態にあたります。
(以下、TNM分類第8版より引用・作成)
N0 | N1 | N2 | N3 | N4 | M1 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
リンパ節転移がない | 第1群のみ | 第2群まで | 第3群まで | 第4群まで | 遠隔転移あり | ||
(がんに近い)![]() |
|||||||
T0, T1a |
粘膜内にとどまる | 0 | Ⅱ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳa | Ⅳb |
T1b | 粘膜下層にとどまる | Ⅰ | Ⅱ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳa | Ⅳb |
T2 | 固有筋層にとどまる | Ⅱ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅲ | Ⅳa | Ⅳb |
T3 | 食道外膜に広がっている | Ⅱ | Ⅲ | Ⅲ | Ⅲ | Ⅳa | Ⅳb |
T4a | 隣接する組織に広がっている(切除可能) | Ⅲ | Ⅲ | Ⅲ | Ⅲ | Ⅳa | Ⅳb |
T4b | 隣接する組織に広がっている(切除不能) | Ⅳa | Ⅳa | Ⅳa | Ⅳa | Ⅳa | Ⅳb |
早期食道がん(0期)で食道の全周に及んでいないがんか、全周に及んでいても長さが5cm以下のがんには、内視鏡治療が選択でき、内視鏡的粘膜切除術(EMR)と内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)があります。内視鏡治療の適応とならない食道がんには、手術または化学放射線療法が標準治療として推奨されており、患者様の体の状態、併存疾患を十分に検討していずれかを行います。化学放射線療法は手術と同じくらいの治療効果が得られるという報告があります1)。手術方法は、胸部やお腹を開いて切除する開胸開腹手術や小さな穴を数ヵ所開けてカメラ・器具を挿入して切除する胸腔鏡・腹腔鏡手術、手術支援ロボットを使用するロボット支援下手術があります。これらで、切除する範囲は変わりませんので安心してください。また、手術前に化学療法を行い、がんを縮小させてから手術を行うこともあり、悪性度の高い食道がんは集学的治療が重要になります2)。
詳しくお聞きになりたい方は、消化器外科専門医・指導医である院長にお気軽にお問い合わせください。
1) Minsky BD et al. J Clin Oncol 2002. 20: 1167-1174.
2) Sugimura K et al. Ann Surg 2021. 274: e465-e472.
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