2026年6月10日
日本のがん死亡率は、全体としては欧米各国と同じペースで着実に減少しています。しかしながら、がん種別に見ると「世界に誇れる成功例」と「残された課題」があるようです1)ので、紹介します。
日本が世界に示した成功例
① 胃がん:長期的な減少は続いていますが、韓国との差が拡大しています
日本の胃がん死亡率は1980年代から一貫して低下しています。 背景には、
- ピロリ菌除菌の保険適用(2013年〜)
- 食生活の改善
- 内視鏡診断の進歩
などが挙げられます。
ただし、韓国は 国家主導の内視鏡検診(40歳以上に2年ごと) が徹底されており、減少率は日本よりはやいです。
② 肝がん:日本は世界のモデルケースになっています
特に女性の肝がん死亡率は、欧米を下回る水準になりました。背景には、
- B型・C型肝炎ウイルスの全国的スクリーニング
- 妊婦のHBV検査の義務化
- C型肝炎の直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の普及
など、国を挙げた肝炎対策の成果です。WHOが掲げる「C型肝炎の2030年までの排除」も達成可能と評価されています。
日本に残された課題とされるがん
① 大腸がん:比較国の中で日本が“最も高い”死亡率になっています
1980年代は欧米の方が高かった大腸がん死亡率が、現在では
- 欧米:減少
- 韓国:減少に転じた
- 日本:横ばい(むしろ微増)
結果として 日本が最も高い死亡率 となっています。背景には、
- がん検診受診率の低さ
- 職域検診での質のばらつき
- 便潜血検査陽性後の精密検査(大腸内視鏡検査)未受診
など、日本特有の課題が指摘されています。
② 膵がん:日本の死亡率は“急増”しています
膵がんは世界的に予後が不良ですが、日本は増加が顕著です。 リスク要因として、
- 喫煙
- 糖尿病
- 肥満
- 高齢化
などが挙げられます。
早期発見が極めて難しいため、生活習慣病対策が最も重要な予防策とされています。
③ 子宮頸がん:日本は比較国で“最も高い”死亡率
1980年代は欧米の方が高かった子宮頸がん死亡率ですが、
- 欧米:HPVワクチン+検診で急減
- 韓国:2000年代以降急減
- 日本:増加傾向のまま
結果として 日本が最も高い死亡率を示しています。HPVワクチン接種率は2022年に勧奨再開後も 20〜30% にとどまり、ワクチン+検診の両輪が欠けていることが大きな要因です。
④ 乳がん(女性):欧米は減少、日本は増加
欧米では、
- マンモグラフィ検診
- ホルモン療法・分子標的治療の進歩
により死亡率が減少に転じています。
一方、日本では、
- 検診受診率がいまだに低い
- 40〜50代の罹患が多い
- 治療開始の遅れがみられる
などが影響し、死亡率は増加傾向にあります。
⑤ 肺がん(男性):減少はしているが欧米よりペースが遅い
日本の男性肺がんは
- 1990年代にピーク
- その後減少したが、欧米よりペースが遅い
喫煙率の高さと禁煙対策の遅れが背景にあります。
がん種別の「なぜ?」を深掘り
以下は論文が示す、がん種別の改善・悪化の背景です。
● 改善したがんの共通点
- 原因が明確である(ピロリ菌、肝炎ウイルスへの対策)
- 全国的なスクリーニング制度がある
- 治療薬の進歩が大きい
→ 国家主導の一貫した対策が成功を生んだと考えられます
● 改善が遅れているがんの共通点
- 検診受診率が低い(大腸がん・乳がん・子宮頸がん)
- 職域検診での質のばらつき(日本特有の問題)
- 生活習慣病の影響が強い(膵がん・大腸がん)
- ワクチン接種率の低迷(子宮頸がん)
→ 「予防の仕組み」が弱い領域で遅れが顕著にみられます
まとめ
日本は
- 胃がん・肝がん対策の成功を示した
- 大腸がん・膵がん・子宮頸がん・乳がん・肺がんでは遅れが目立つ
という二面性を持っています。
今後の鍵は
- 検診の受診率向上をすすめる(特に大腸がん・乳がん・子宮頸がん)
- HPVワクチン定期接種の普及・啓蒙
- 禁煙・糖尿病管理など生活習慣病対策の推進
- 職域検診での質の均てん化
これらを国のみならずに私たちの意識改革もできれば、胃がん・肝がんで達成した成功を、他のがんにも広げられる可能性があります。
- Katanoda K et al. Jpn J Clin Oncol, 2026, 1–7. https://doi.org/10.1093/jjco/hyag029
この記事を監修した医師

たむら内科・消化器内視鏡クリニック院長
田村 耕一
和歌山県立医科大学医学部卒業。同大学附属病院をはじめ、関連基幹病院にて勤務し、消化器外科手術や消化器内視鏡検査、抗がん剤治療などに精通している。また、筆頭著者として多数の英語論文の執筆歴があり、消化器がんの早期診断と治療を含めた啓発活動にも重要性を見出だしている。2024年11月よりたむら内科・消化器内視鏡クリニック院長として地域医療と内視鏡検査の普及にも注力している。
